難しい問題です。お子さんのアトピー性皮膚炎は成長とともによくなっていくといわれていますが、成人に持ち越した場合や成人発症の場合は、慢性に経過しやすい傾向があるようです。また、こじらせてしまえばしまうほど治りにくくなります。体質もあるので完治というのはむずかしいですが、今ある湿疹をきちんと治療し、うまくコントロールしていけば、傍から見て皮膚炎があるかどうかわからない状態、自分でもたまに思い出す程度までもっていくことは十分に可能です。
お風呂であまり強くこすりすぎると皮脂をとってかさかさになり、またかゆくなるという悪循環になります。ナイロンのタオルも皮脂膜を落として傷をつけてかゆみを出します。せっけんは香料が入っているものや殺菌作用のあるものは刺激が強いので、普通のせっけんをよく泡立てて、あまりこすらずに汚れをおとすのがいいと思います。熱いお湯に長くつかるのも、かゆみを増すのでよくないようです。風呂上りには保湿クリームを使うのがいいでしょう。
性能のいい電気かみそりを使うのが、皮膚に傷がつきにくいので、一番いいですね。ただ刃の手入れをよくして、切れ味が落ちないように注意すること。T字型のかみそりを使ってもいいですが、なるべく値段の高い、切れ味のいいものをお使いになることです。4枚刃、5枚刃というように、切れ味がよくて、皮膚との接触面積が少ないものの方がいいのです。安いものは皮膚に傷がつきやすく、皮膚が荒れます。ふつうのかみそりを使うときの注意点としては、まず皮膚を蒸しタオルなどで温めてやわらかくしてから、ひげ剃りクリームを使うか、石鹸をよく泡立ててひげを剃ること、そして石鹸が後に残らないようにしっかり洗い流すことです。
赤みやブツブツがなくなり、眼をつぶって触ってみてボコボコやざらつきがなく、ツルツルだったら、保湿剤を使うタイミングです。ステロイドをときどき塗りながら、保湿剤を塗る日の割合を増やしていきます。湿疹が治った後に色素沈着が残ることがありますが、これは半年か1年で自然に消えます。
日本皮膚科学会の定義では、①増悪(悪くなる)・寛解(よくなる)を繰り返す、②痒みのある発疹(湿疹)がある、③多くの場合にアトピー素因がある、とされています。アトピー素因とは、本人や家族に気管支ぜんそくやアレルギー性結膜炎などの人がいてIgE抗体を作りやすいことをいいます。年齢に応じて症状が異なり、乳児期は頭と顔に急性の発疹が出てジクジクします。幼児期になると皮膚が乾燥してひじやひざの内側に発疹が出やすくなり、症状が慢性化すると皮膚が硬くなり苔癬化します。成人になると主に上半身に症状が見られ、さらに炎症が強く苔癬化してきます。症状を慢性的(乳児の場合2カ月以上、他の年代の方は6カ月以上)に繰り返す、発疹に新しいものと古いものが混在していること等で診断がなされることもあります。
アトピー性皮膚炎の診断がついたら、まず重症度を評価し、原因因子、悪化因子を探して対策を立て、スキンケアと薬物療法を行うのが基本です。治療目標は患者のQOL(生活の質)の向上です。治療を標準化したガイドラインにもあるように、アトピー性皮膚炎は遺伝的素因を含んだ多病因性の疾患であり、完治させる薬物療法はありません。悪化因子は人それぞれで、たとえば食物、ダニ・ホコリやストレス、汗や乾燥など原因が複数であることがほとんどです。これらは血液検査である程度判明しますが、検査の数値はあくまでも参考で、まずは標準治療をします。使われる薬はステロイド外用薬とタクロリムス軟膏です。ステロイドはとても誤解の多い薬です。しかし、ステロイドなくして科学的な治療は望めません。ただし使い方を間違えると、皮膚が薄くなり多毛になる、毛細血管が浮き出るなどの副作用が出ることもあります。しかし専門医の元で決められた量を守っていれば、むやみに恐れなくてもいいと思います。副作用を疑ったら、自己判断せずに医師に相談して下さい。外用薬の使い方は、シャワーや入浴で汚れを落として水分を皮膚に補給したあと、保湿剤でスキンケアを行い、そして湿疹部分にステロイドという順です。
プロトピックは免疫抑制剤で、副作用も少なく有効性があり、特に顔などには大変いい薬です。本薬の大きな特徴は、分子が大きいこと。使用初期に感じるヒリヒリ感は、皮膚の治癒に伴い吸収されにくくなるため緩和されてきます。欧米では、症状が軽快したあとも定期的に使用することで予防薬の側面も持つようになりました。
遺伝的要素があることは間違いないと言われています。しかし実際に家族にも既往歴がある方は40%ぐらいで、むしろ環境因子の方が重要です。アトピー性皮膚炎はアレルギーだと思われがちですが、アレルギーはアトピー性皮膚炎の一側面に過ぎず、患者の2~3割の方でははっきりしたアレルギーを証明できていません。他の側面は皮膚のバリア機能が不十分で乾燥しやすい、体質としてのドライスキンです。
保湿剤には皮膚の炎症を抑える効果はありませんので、痒みが出て、掻くと悪化する可能性があります。ステロイド外用薬で皮膚の炎症を抑える必要があるのです。ステロイド外用薬の強さは日本では5段階です。下から2番目くらいの弱いものを選んで、炎症を抑え、その後は保湿を中心にした治療であれば、湿疹は改善し、大きな副作用もないでしょう。
基本的には何を使ってもいいのですが、肌に合う、合わないはあります。地肌や首周りの赤みがとれなかったのが、シャンプーを替えたらよくなった子供さんもいます。固形せっけんは油にアルカリを混ぜて作ります。液体の状態の商品をつくるには界面活性剤などを加えるわけで、液体せっけんの方が刺激物を多く含んでいます。肌の強い人は大丈夫ですが、弱い人は後にかぶれが出てくる可能性は高いです。せっけんは基本的にアルカリ性ですから、肌によいといわれる弱酸性のせっけんもそれなりにいろいろな化学物質が入っています。せっけんは香料や色素もあまり入っていないほうがいいと思います。
スキンケアを行うためには、特殊なせっけんなどを使用するのでなく、普通のせっけんでよいと指導しています。肌を清潔にして外用薬をちゃんと塗る標準治療で十分アトピー性皮膚炎はよくなります。最初から特別なせっけんをすすめるようなところはあやしいと思っていいでしょう。
ゴム手袋やビニール手袋を直接使うと蒸れてしまうことが多いので、まず薄い木綿の手袋をしてからゴム手袋などを使うと刺激が少なくなります。
アトピー性皮膚炎の場合は洗うことが非常に重要です。一日一回、夜にしかシャワーを浴びたりお風呂に入ったりしないのであれば、朝もしっかり浴び、軟膏を塗ってから出かけるといいです。とにかく清潔にしてあげることです。薬を使っていても血液の検査結果が悪くなってしまうのは、湿疹が悪いのではないかと思います。湿疹で皮膚が刺激されると、どうしても血液の検査は悪くなります。スキンケアをしっかりして、薬をきちんと塗ります。よくなっても薬をすぐにやめないでください。ある程度きれいになっても、その下でまだ炎症が起こっているので、薬をやめればあっという間に元に戻ってしまいます。回数を減らしながら、しばらくは続けることです。
紫外線で悪くなる方はいますが、紫外線ですべてのアトピーが悪化するわけではないので、きちんとしたケアをしていれば外出などはかまいません。プール等は塩素を含んだところも多いので、プールに行って悪化する人はやめたほうがいいですが、何も問題ない方にはプールも海もやめることはありません。しかし、水から上がった時にはきれいな水などで洗って、その後に薬等のスキンケアをしていただければよいと思います。暑い日は、そのうえに身体に合った日焼け止めをしっかり塗りましょう。